こちら側とむこう側
CAMERA_R72
LENS_Distagon_35mmf2
暗がりの中を歩いている。
心も体も。
鏡のこっち側にいる世界と、鏡のむこう側にいる世界。
ふたつの世界はパラレルになっていて、それはきっとどちらも本当に世界なのだ。
「在る」
在るのか無いのかを決めるのも自分自身。無いと言えば無い。ただ、それだけのこと。
鏡を見ることは勇気が要ること。
少なくとも僕にとっては。
それがあまりにも日常的になれば人は慣れるのだということは分かっている。分かっているから怖くなる。その世界が当たり前になってしまうから。
イライラとする感情が収まらない。鏡のむこう側にいる自分に対して。でもそれはつまりは鏡のこちら側にいる自分自身を映しているのだ。手にとった本はいつも通りにシワとシミにあふれている。ラジオの中からは牧歌的な歌が流れている。テレビは観ない。
武器がある。
カメラ、タイプライトを打つ自身の手と指、そしてBの芯が入ったシャープペンシル。
どこからか届くどうでもいいようなくだらない、くだらないことが書かれたFAXの裏側の白紙の部分にメモを取る。
戦いはいつだって自分自身と行うこと。
鏡のこちら側もむこう側もつまりは自分自身の世界なのだから。
敵など存在しない戦いだってあるのだ。